それは、寝待ち月の夜。
人気のない食堂で、カードに耽っているときだった。

「ひとりでも、面白いのか?」

黒犬が足元に、寝そべっていた。

「まあ、ね」

人の姿をしたほうが、適当にうなづいた。

「貴方とやっても、変わらないですよ」

犬の姿のほうが、少し顔を上げた。

「少なくとも、虚しくはなくないか?」

回答者は、小さく笑みを浮かべる。

「まあ、私の一人勝ちですから」

ふん、と鼻を鳴らして、

「言うようになったな、グランズ」

だから、その名で呼ぶなというのに。

「それに、私の場合、
カードに勝ち負けはいらないですよ」

テーブルにひらりと飛び乗って、

「そうか?」

ひと睨みで降ろされた。

「私は数学的にカードを解明しようとしてるんですから」

あからさまにため息を吐いて。

「天職だよ、サン、お前の“太陽”の賢者」

呼び名はひとつで充分なのだ。

 
「あなたは、どんな感じでしたか。」

「いきなりだな、何がだ?―はっきり言えよ」

ひと息で。

「人で、なくなるときですかね─。」

笑って。

「詩的だな、相変わらず」

少しうつ向いて考えこみ。

「目を開けたら、
視点が違ったな、お前は?」

「は、」

一瞬、表情が固まった。

「それが言いたくて、訊いたんだろ」

そして前髮を掻きあげるようにして、

「流石ですね」

目線を上げた。

 
「その時までの、自分の姿が順々に成長するさまを、ただ傍観していましたね。
自分以外の人間の姿も雑じってきて、そのうち自分とも、他人とも判らなくなって」

響くはずの言葉は、広い空間で、遠慮がちに届いた。

「枯れました」

二人の人間というよりは、
空間が、頬笑んだ。

「グランズ」

 
その姿は、輪郭だけを残して溶けて、女性の姿になる。
月夜を映し、青みを帯びた犬は、その手に鼻をおしつけた。

「あなたなら、この姿のほうが、きっと長く大事にしてくれますね」

上目遣いに睨んで。

「ふん、嫌味か?それとも負け惜しみか」

最後は笑って。

「さあ、でも。」

弾けたような軽い音がして、蜻蛉が言った。

「しばらくレパートリーがつきそうにありませんね」

白い光のすじを背にしょって、反論の言葉をのみこむ。

「いや、だから。すまん」

珍しく、弱気に言う。

「お前の妹だとは、知らなかったんだ」

笑いながら、溜息を吐いて。

「いいんですよ。アザーは私の妹ですが、言動まで縛る気はさらさらありませんから」

こちらは、安堵の溜息を吐いたようだ。

 
「さあ、仕事だ。魔犬たち、待ちくたびれてるだろうな」

カードを一枚引く。キングのカード。無論、確率を計算済みだった。

「気をつけて、デイ・ブレイク」

薄青の朝日の中で、目を丸くした犬が、おう、と吠えた。
+花輪作りはなんて残酷な遊びだろうと、+
思った。
その手を握り、
「あなたは悪くない。」と言えればいいのにと。

「手だけでいいのかい。」
彼の人は問うた。
答えた。
「それ以上は望めない。」と。

ならば。そう言って彼は笑んで、
「花輪は、棄てられてしまうのだから。」
と、泣いた。

---
日記

今日は、
背の高くなった雑草を掻き分けて、川沿いを歩いてみたり、
白詰草(しろつめくさ)の懐かしさに、
花輪を編んでみたりしました。
そんな時につくった物語です。
小さな楽譜屋。
主人は細い指先でチェロを磨き、調弦している。
細身で小柄な優男の彼は、どちらかといえばチェロに支えられているという感じだ。

ふと、顔を上げる。
彼は気配を感じるのが人一倍早い。
その上、金枠のついた厚い木扉の前を通っただけで察することができる。
つまり、人が来ないのだ。
下り坂の途中にある彼の店は、颯爽と滑っていく自転車や駆け降りて笑う子供たちの眼には一瞬しか映らない。
〔le clignotement d’un chat〕―猫の瞬き、という長い長いフランス語の店名にしたのはこのためだ。

猫背の店主は溜息を吐いて、とんとん、と腰を叩く。
姿勢が悪い為、まだそんなに誕生日を数えていない彼も腰が痛む。
*お客様が来ないのも、腰が痛いのもどうでもいい。あいつはドコにいったのだ。
ピアノの弾き語りでポピュラーな父親の小遣いで、細々となら生活していける。それにこれ以上の生活は望まない。と彼は強がる。

一度消えていた気配が(彼には気配の個人差がわかる)、また戻ってきた。
恐らくノブに手を掛けたところだ。
シャル、リラ、レラ…
不規則でまるで星屑の様な鈴の音がなる。
枠ぎりぎりの所に、みつ編みの、ちょっと懐かしい風貌のセーラー服の少女が立っていた。

泥だらけの痩せた猫で店内を汚すまい。と考えたらしい。
その場で店主に声をかけた。
*お仕事中すみません、あのここら辺で猫を飼っているお家をご存知ないですか
にこやかに彼女の顔に視線を向けた後、俯いてまたチェロを調弦していた店主は、その声を聞いたとたん、パシッとでも音がしそうな勢いで顔を上げた。
*セロっ
チェロの弓を放り投げて、少女に抱かれていた美しいアンバー色の猫を抱き上げた。
*ありがとうっ
涙目で、少女に礼を言う。さっきまでの寡黙なイメェジはドコへやらだ。
*よかった。チェロ弾きさんの猫君だったんですね
そう言って柔らかに微笑む。

名乗る程のことはしていない。としきりに手を振る彼女だったが、店主の笑顔に圧され、*蒼翠璽 諷_sousuizi fooと名乗った。
セロ(もちろんチェロが名の由来だ)は店主の手で美しく磨かれ、特上(=セロの好物)のハマチの刺身がたっぷり振舞われた。これでスマートな体形を維持しているのだからすごい。

ひとつ楽譜をプレゼントすると言われ、蒼翠璽嬢は歌曲の楽譜を見比べている。
暫くして、なんとなく彼女に合わぬ様な合う様な熱情的な愛の歌の楽譜をカウンター代わりの椅子に置いた。
コインを数えて渡すと、後ろにいたお客様を気にしながら店主はそれを上手く楽譜のファイルの間に挾んで返した。
躊躇する少女に無言で笑顔を向けると、彼は次の御客様の対応に移る。アンティークの価値があるのではないかという、細工の細かな燻したような金色のレジが鳴った。
少女は振り向き様に、セロが瞬きをした様な気がした。
*le rideau est descendu*―閉幕

※フランス語翻訳では、ワールドリンゴ様の機械翻訳にお世話になりました。
草原で地面に手を翳す。
「ああ、ここに芽吹くんだね」
そう呟いて、目を閉じる。
ふわり、と暖かい光と熱。
若草色の芽が芽吹く。
まるで彫刻のように、面白いかたちに伸びてゆく。
虹色の光を纏いながら。
少年は、ロビンといった。
その場は凍っていた。

真ん中に黒髪を後ろに撫で付け、真っ黒な外套を纏った長身の男がいた。
辺りは暗い。
男の白い肌が、透けた様に浮かんでいた。

「若王」
良く通るバリトンが響いた。
ただ現在は、心地良くは聞こえない。
若王と呼ばれた者は、その紅い瞳で睨みつけた。
「私を蔑まれますか」
反対に男の瞳は蒼黒で、何処までも深かった。
大理石の割れ目からは靄の様な物が染み出していた。
男は少年の紅い瞳の縁をなぞる。
「"太陽"」
彼は軽蔑の声を上げる。
「何故お前は此処に居る」
男は微動だにせず低く落ち着いた声で答える。
「記憶という物は覚えている者が在る限り、残るのですよ」
そう言って男は、堆く積まれた宝石、貴石、半貴石の山とその上に居る少年少女の方に視線を遣った。
「裏切り者め」
紅い眼の少年が吐き捨てる。
現在は蒼みの強い眼の男が見詰める。
翡翠色の眼の少年は顔を背ける。
瑠璃色の眼の少女は祈る様に俯いている。
「貴方は勘違いをしている」
翡翠の少年は山を降りた。
男の発した言葉に耳を傾けながら、8体の銅像を斬り付け始めた。
「ジェイド」
静止の声が届かない。
無言のまま、無表情のままひたすら斬り付ける。
「その方達は私が責任を持ちます。安心なさい」
翡翠色の雫が、跪いた少年から零れ落ちた。
放心した様にそれを傍観していた紅い少年を男が見据えている。
それでも、彼の瞳は少年を直視出来ていなかった。
「貴方の望む人は、何処にもいない」

八方から、純白の獣が男に集結した。
「サン」
1匹から声がした。
それを制すと、男は初めて微笑んだ。
「若王、もう大丈夫です。疲れたでしょう」
瑠璃色の少女も山を降り、紅い少年の背を摩りながら後を続けた。
「貴方の紅い眼は、悪魔の所為ではありませんよ」
少年は怯えていた。
「それにいい色じゃないか。なあ、サン」
「そうですね、ブラック国王陛下」
ガラガラと宝石の山が崩れ、割れ目が埋められていく。
そのうち毒ガスの靄は、完全に漏れなくなった。

「いい歌だった、ジェイドさんよ」
大部屋の真ん中に陣取って、ブラック国王陛下こと魔犬の1匹が話し始めた。もとは漆黒だったが、今は辺りの物を映して万華鏡の様だ。
「国王、もう少し丁寧な言葉でお話なさい」
男ことサン、"太陽"の賢者が窘めた。
「長いこと喋らなかったから、忘れてしまったさ」
国王は満足そうに笑った。"太陽"は溜息を吐く。
翡翠色の眼の少年、ジェイドがじれったそうに欠伸をする。
若王こと紅い眼の少年、キラを挾んで瑠璃色の瞳の少女、ラピスが幼馴染みを横目で睨む。
「ま、つまりだ、わたしが興味半分で扉の謎掛けを解いてしまったんだな」
ジェイドには、国王が自分に目配せをした様に見えた。
「で、知っての通り次ぎの賢者に任命されてしまって、わたしが掛けた謎の答えの姿になってしまったというわけだ」
「つまり、サンの前の賢者ブラックはあなただったんですね」
国王はまた満足そうな笑みをみせた。どうやら癖らしい。
「我ながら、"黒"の謎は気に入っているんだ」
「素晴らしすぎて、解くのが難儀でしたよ」
"太陽"が再び溜息を吐く。
「そしてこの姿では国民が不安になると部下達に説得させられて、急遽わたしは姿を消し、息子のキラが秘密と共に王位を継いだ」
キラはまっすぐ国王を見て微笑んだ。その眼は先程と違い、澄んでいる。
「欲に目の眩んだ馬鹿に何を言われたか知らないが、お前の眼の色は母親譲りで、何にも珍しくないぞ」
国王は"太陽"をちらりと見ると小声になって囁いた。
「この眉目秀麗なのに堅物なんで未だに浮いた話ひとつない男の眼の色の方がよっぽど珍しいんだぜ」
息継ぎもなく言い切った悪口を"太陽"は全て聞き取った様だ。でもそんな素振りは微塵もみせない。本当は彼とは乳児の頃から知合いだったキラは、後が怖くなった。

「国王、そろそろジェイド様とラピス様を国に帰しませんと」
晩餐の後、"太陽"の言葉で寂しさが辺りを徐々に支配していった。
国王はジェイドに何か囁き、ジェイドは驚いて否定した。
キラはラピスとその場に居た全員に謝罪し、皆は微笑んで一年後、正式な戴冠式への出席を約束した。
「さて、暗くなる前に出発しないとこの方達が見えなくなってしまいます」
残り7匹の獣、蒼色の空を映した白狼を撫でながら、"太陽"が言った。
狼の背に乗ると別れを告げる暇もなく辺りは蒼色に輝き、崩された壁の上に停まった。
「サン」
ラピスが呼んだ。ジェイドは左側に広がる平原を見るようにして、2人を眺めている。
"太陽"は悪戯っぽく微笑うと、言った。
「国王が何を言ったか知りませんが、ご心配なく。私は"記憶"ですから、実体は在りません」
そして笑みを深くした。
「戴冠式にいらっしゃる時は、どうぞご夫婦で!」
最後の声は蒼色と、驚いて振り向いたジェイドとそれを見て吹き出したラピスの笑い声に紛れてしまった。

-fin-
僕は、懐古的な匂いを吸い込んだ。
そして非日常から日常へ戻ろうとした瞬間、僕の眼は異質なものを捕えた。
図書館という場所は、どこか個人主義だ。本は大抵独りで読むものだから、当たり前といえば当たり前だが。
それ以前に、見知らぬ人物に視線を固定するのは、あまり好ましい事ではないだろう。
だがその娘(ひと)の行動は僕にとって例外的だった。
普段あまり見ない方向に向かって、目をキョロキョロさせたり、はたまた凝視したり、そのままヨリ眼にしたりしてかなり奇怪なのだ。
失礼かと思ったが近づき、声をかけた。

「あの、どうされたんですか?」
セーラー服に黒のスカーフ、男子用のズボンという一風変わった格好の少女は、視点を定めたまま、言った。
「面白いことを知らずに死ぬのは可哀想だと思って」
意味が解らず、取敢ず彼女の視線を追うとそこにツバメの巣があった。
吹き抜けになった天井近くの窓枠だ。
『そういや、用務員が“今日こそ落としてやる”なんて言ってたっけ』
フン害でもあるのかも知れない。
「もうすぐ柳田さんが来ちゃうんだよね」
彼女は同じようにウィンクしながら言った。どうやら用務員は柳田というらしい。
「君、なんか知らないかな、面白い事」
僕は首を横に振った。第一ツバメにジョークが通じるとも思えない。
ただ何も知らず餌を求めて鳴いているだけだ。
そう思うと今まで巣がある事も知らなかった筈なのに、物悲しくなってくる。
 

来た。
この男は絶対巣を壊すんだろう。
子供たちはまだ飛べないのに。
また、あの子が来ている。信頼はしているけど助けてはくれないと思う。
可哀想に。
あの子が何かを―。
 

ツバメの親が帰って来た。同時に、柳田が脚立に足をかけた。
彼女は、もう何も語らずツバメを見詰めていた。違う。
目が、コトバを伝えている。手に取るようにはっきりと解る。
そして、信じられなかった。
親ツバメが彼女の肩に乗った。
彼女はその肩に向けて頷くと、梯子の下に行った。
柳田が観ている。
その目は、確りと彼女の視線に射抜かれていた。
「しかし霞呉ちゃん、」
カグレ、と呼ばれた少女は身動ぎもしなかった。

柳田は脚立から降りた。
カグレはツバメを肩に乗せたまま、登っていった。
まもなく優しげな動作で、ツバメの子をスカーフに乗せて降りてきた。
柳田は苦笑すると、ただの泥の固まりとなった巣を落とした。
そしてカグレは消え入りそうな程に優しい声で
「有難う」
と礼を述べた。

彼女は、カグレの鳥籠のなかで、その弱すぎる鳥を育てるのだろう。
僕は、読みかけた小説のページを開けた。

『鳥籠』
ページが風に捲られて。
少女。鳥。視線。

+AMULET?+

2005年6月28日 物語
昔来た道
これはみんなのものが合言葉
大切に大切に
アイツにとられた
十字傷が合言葉
何ぞや何ぞや
此処は何処?

城に着くまでの道は、以前父と通ったことがあった。
それに、南と北を魔犬の壁で区切っただけだから難は無かった。
城に着くと、案の定、ノッカーを叩いても反応が無いし、扉だって開かない。まあこれは解っていた事だ。
(つるぎ)を抜いて、扉を十字に斬り付ける。昔話で父から聞いた話だ。

『我此処を守る者なり
 我傷つけた者に訊く
 其方の目的は何ぞ?』

偉くくぐもった声が頭に響き渡る。あまり気持ちの良いものではない。
「囚われた娘を奪いに来た」
心地の悪さに、言葉を選ぶ事も出来なかった。

『我の記憶なり
 今日東で泣く子を見た
 今日南で笑う子を見た
 今日西で怒る子を見た
 今日北で起こった事は知らぬ』

頭に響く声は益々不快感を増す。それでも聞き逃さないように必死になった。

『我の記憶なり
 昨日は向かいに弓を見た
 今日は何も見ぬ』

吐気を催す程響き渡り、反響している。

『我の記憶なり
 昔賢者は我を此処に刻んだ
 解かれよ封印
 我は何ぞや?』

総ての身体の不調がきたような不快感に襲われながら、必死で答えた。

「お前は『太陽』ではないのか?」

突然体内の不協和音が消え、衝撃で俺は地面に叩きつけられた。
扉が、この世では考えられない程の光を発している。

『新たな賢者は此処にあるぞ
 答えをみつけた
 魔犬はただの犬
 新たな賢者は何ぞや?』

「俺は吟遊詩人で、賢者になる気はない」

『ならばこの扉どう守る?』

「入りたい人は、入ればいい。
 中の人は、逃げたきゃ逃げろ」

『吟遊詩人の仰せのままに
 我陽の光に戻るとしよう』

何の音も無しに、扉は開いた。
扉のうらでは、太陽を象ったレリーフが溶けて消えていった。
「誰か居ないのか!」
まだ少し残る不快感に語調が荒くなった。

『名を教えては下さらんか』
先ほどとは違う、耳に心地良いバリトンが聞こえてきた。

「ジェイド・マクミランです」
『ギルダ・マクミランの息子ではござらんか』
「そうです」
『残念だが、ギルダは悪魔に喰い尽くされた』

衝撃だった。
「今何処に。」
『王を護った結果なのだ。屍は私がクルドへ送り、埋葬した』
「母の墓の側か?」
『リラ・ダルタンであるか?』
「そうです。父の妻、リラ・マクミランの旧姓はダルタンでした」
『心配はない、そのようにいたした』

俺は独りか。
「貴方はどなたですか?」
『私は"太陽"の賢者の記憶であります。貴方が呼ぶまで誰も呼びませんでしたが』
「貴方の事は」
『"サン"とお呼び下さい。呼び捨てで結構』
「サンの事は、王はご存知なのですか?」
『ご存知ないでしょう。それに驚かれるでしょう』
「と、言うと?」
『私は歴代の賢者と違い、フェリアの人間であるので』
「それは都合がいい。クルドだろうとフェリアだろうと、賢者になる事が出来る事を王に伝えられる」
『何を言っておられるので?』
「貴方が、王付きの賢者になればよいのです。前の王の時、ブラックと呼ばれる賢者がしたように助言を」
『そうしたいのだが、いま呼ばれて初めて封印が解け、王に会った事はないので』
「これから会えばいい」

あいつにもこれから逢える
アイツにもこれから会える

To be continued...
* * *

お待たせしました!
『AMULET』の続きです。
中の問答が難しいかどうかは微妙ですが、これが精一杯でした(汗)。
もう少しでクライマックスです。
果たして幼ない王はどうなるのか…。

「『結婚行進曲』を聴いて、何故だか哀しくなった」
ふと彼女は呟いた。
「なんでだろうね。メンデルスゾーンは好き」
脈絡の無い会話を交わしながら、窓の外に目を遣った。
快晴。
「『雲ひとつ無い青空』ってやつか?」
別に特に意味はなく訊く。
彼女は窓から身を乗り出すと、
「否(いや)、彼処にひとつ有る」
と答えた。
「『雲ひとつ無い』って言われると本当にそうかどうか探したくなる。で、本当にそうだった時は無性に嬉しくなる」
「解る気がするな」
「普通に『莫迦』って言っていいよ」
未だ初夏になりたてだというのに、今日は何故か暑い。
別に過ごし辛い程でもないが。
「フィドル、何かリクエストは?」
ヴァイオリンに手を伸ばしながら訊いた。
「フォーク?クラシック?」
「どっちでも」
「楽器ってクラシック弾いてないと駄目になるって聞いた事あるから、クラシック」
「曲目は?」
「なんでもいい」
深呼吸して弾き始める。
メンデルスゾーン『春の歌』。
季節外れだという事に暫くしてから気が付いた。
弾き終わると、彼女は拍手をしてから口を開いた。
「なんかさ、ヴァイオリン弾いてる姿って色っぽいよね」
「は?」
「あ、気にしない、気にしない。単なる私の主観です」
どこかのラジオから聴き慣れた、フォークの名曲が流れてくる。
それに合わせてまたヴァイオリンを弾き始めた。
彼女が一緒に歌いだす。
訳詞ではなく、原詞で流暢に。
綺麗な声をしていると、いつも思う。
「フィドルってフォークに用いる時のヴァイオリンの事なんだって。『f-i-d-d-l-e』」
「歌、まだ終ってない」
「ごめん」
やっと吹いてきた風に、彼女の歌声と、ヴァイオリンの音色が混じっていく。
ラジオの音はもう聴こえない。
∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵∴∵
男女の友情って憧れるなあって事で書いてみました。
脈絡の無い文章ですみません。
因みに、メンデルスゾーン様の曲が好きなのは私です。

『AMULET』なんですが、行き詰まってしまいました…。
ノリノリで書いたはいいものの、「呪いの謎掛け」が思い付かなくて…。
すみません、いつか必ず続きを書きます。

+AMULET?+

2005年5月27日 物語
まったく、可哀想な奴等だ。一番の魔物はコイツ等じゃなくて、王様に取り憑いている奴だろ?

南と北の境は石を積み上げて出来た、ゴツゴツした壁で、結構簡単に登れる物だ。
見張りの兵隊も居ない。
居るのは、魔犬だ。
牙を剥いて俺を睨みつけている。―何処か哀しげな瞳をして。

俺は竪琴を取り出して詠い始めた。
俺の職業は、吟遊詩人だ。

『何も知らされてはゐないその瞳
 哀しげに光るその瞳
 なあ、主人はなんと言つたんだい?
 疑問を抱く事もしない君達
 嗚呼なんて愛しいんだらう
 でも可哀想なんて言はないさ
 それこそプライドに障るだらう?
 さあ、おいで歌を歌はう
 愛しき者達
 歌を歌はう』

詠い終わった時、すでに魔犬達は大人しくなり、甘えてくる奴も居た。
もしかしてコイツ等は、優しい言葉を掛けて貰った事が無いんではないだろうか。
ふとそんな考えが頭を過ぎった。
北と南の境が無くなったら、コイツ等にいい飼い主を探してやろう。
魔物使いは今でも居るからな。

ラピスを助け出したら、王様には、誰か信頼出来る賢者が必要だな。
そうしたらこの国もよくなるだろう。

故郷は誰でも持っている。
其処への愛情と共に。
誰かへの愛情と共に。

+AMULET?+

2005年5月18日 物語
美しい物もありすぎればただ派手なだけで、ギラギラと怒りを助長するだけだという事を私は学んだ。

お涙頂戴の本から目を上げると、
聞き慣れた、もとい最近唯一聞く声がした。
「あれ?泣かないの?」
「泣くなんて事とうの昔に忘れました、陛下」
女は誰だってこういう物を読んだらメソメソ泣くとでも思っているのだろうか。

昔はよく泣いた。
まさか0歳の時の記憶はないし、私にとっての故郷はフェリアの土地ではなく、クルドの土地なのだ。物心がついた時にはあそこにいたのだから。
帰りたかった、逢いたかった。

暫くして、気を紛らわすために王室内の図書館へ赴き、本を読み漁るようになると、私は恐ろしい現実を知った。
王様の大好きな宝石の岩盤の下には、有毒ガスが渦巻いているのだ。
こんな大事な事を、王室内の誰も知らないのだろうか。ちょっと資料を紐解けばわかる事なのに。

仕方がないのかもしれない。今まで地道な努力の大切さをよく知り、忠告してきた賢者は、北にいるのだから。
まったく、子供じみている。
フェリアとクルドの違いを指摘されて、嫉妬し、王室の重役から赤ん坊ひとりに至るまで、全部追い遣るなんて。

「ラピスって可愛くないね」
「有難う御座います、陛下」
「褒めてないよ、僕」
泣く事が可愛いなんて、考えた事もなかった。
キラ=オブ・キング、貴方は何処まで偏った考えしか持っていないのか。
幼ない子供のような王は、私と同い年で15歳だと聞いた。
はっきり言って鯖を読んでいるのではないかと思った。私とてまだ子供の年齡に入るとは思うが、王はもっと幼なく思えた。

ジェイドが此処から出してくれると信じている。
でもそれは難題だ。
古代魔術師がかけた呪いが、この城を護っている。
呪いは謎掛けで、解けた者は1人も居ないと聞く。最近は誰も挑戦すらしていないらしい。
はたしてジェイドに解けるだろうか。
まあ、王よりは見込みがあるだろう。
古代魔術師もジェイドと同じクルドの人間だと図書館の本に書いてあった。
結局、いくら嫉妬したところで、フェリアの王様はクルドにお世話になっているのだ。
それを追い遣るとは、なんと罰当たりな。

ジェイドはもう、北と南の境まで来てくれているだろうか。
魔犬に襲われていないといいが。
あの地域は黒い生物の楽園だから。
でも一番黒い生物は、傍らのベッドで眠る、王なのだ。
無知は時に悪魔的な考えを呼び起こす。
幼ない王は、その悪魔に取り憑かれているのだ。

時に色の多い宝石の中では、黒が一番目立ち、美しく見えるかもしれない。
でも所詮黒は黒。
悪魔を象徴する色なのだ。

To be continued...

+AMULET?+

2005年5月17日 物語
『神様』なんて信じちゃいないのに『お守り』を提げているのは、
あいつを感じる物が他に無いから。

忌々しい王様の所為で、俺の国はまっぷたつに別れた。
フェリア族は宮殿がある南側に、クルド族や混血は荒地がある北側に。クルドは昔から知恵をもって生き延びてきた民族だ。それを疎まれ、荒地に追い遣られたところで、絶滅なんてことにはならなかった。

俺は五つだった。父はフェリアの生まれで、母はクルドの生まれだった。王族に仕えていた父は、母の生まれを偽り、夫婦で南に残った。
俺は母の妹に預けられた。仕方なかったのだ、母の外見はフェリアでもクルドでも通ったが、俺は翡翠色の瞳というクルド特有の外見だった。
父は野望を果たしたら、必ず迎えに来ると言った。
南と北は行き来を禁止されていた。
父の野望は、子供じみた考えしかもたない王族を抹消することだった。

フェリアの子供がひとりいた。
クルドの馬鹿が、攫って来たのだった。
ラピスと名付けられた。
フェリア特有の藍色の瞳から、宝石ラピスラズリを連想させたからだ。
ジェイドという名が俺の名だった。ラピスと同じく、瞳の色から名付けられた。
その事がきっかけで、俺逹はすぐに仲良くなった。

「ラピスは『神様』を信じてるのか?」
「どうしてそんな事訊くの?」
「『お守り』してるから」
「信じてるよ」
「どうして?『神様』なんていない―もしいたら、フェリアの王様は『天罰』を受けてる筈だろ」

フェリアの王様は幸せだった。
非難する賢者はもういない。
宝石は溢れるほど出土した。
俺の父は知っていた。宝石の岩盤のしたに、有毒ガスが渦巻いている事を。

ラピスは美しく成長した。
そしてとうとうフェリスの輩に発見されてしまった。
連行されていく時、ラピスは俺に『お守り』を投げ渡した。

だからこれは神様への祈りの為じゃない、あいつへの誓いの印なんだ。
『必ず迎えに行く』

To be continued...
空の子供は言いました。

「ママー、ママー。みてカラスさんのおうちがあるよ」
「まあ!たいへん!でんせんに!」
こわいおじさんがきて、カラスさんのおうちをとっちゃった。
ぼくは、うれしかったのに。ママがよろこんでくれるとおもったのに。
ごめんね。カラスさん。

海の子供は言いました。

「ママー、ママー。ほらクラゲさんがいるよ」
「まあ!たいへん!」
ママはこわいかおをして、ぼくをうみからだしました。
ぼくは、うれしかったのに。クラゲさんといっしょにあそべるとおもったのに。
ごめんね。クラゲさん。
___________
無知は怖くて哀しい。
***
『物語』フォルダに入れましたが、今のところ詩か、物語かはっきりしません。
もう少し手を入れて、物語としてHPの方にUpするかも(いつになるかはわかりませんが)。

“午前ハ_御主人様ノ御朝食ヲ準備スル.
次ニ_掃除ヲシテ_倉庫内ノ物ヲチェックスル.
正午ニハ_御昼食ヲ準備スル.
午後ハ_御客様ニ御挨拶ヲシタ後_休憩時間.貴方ヘノ手紙ヲ書キ_読書ヲ楽シミマス.
日没前ニハ御夕食ヲ準備スル.
ソシテ_御主人様ニ一日ノ御報告ヲシテ_休ミマス.”

わたしはこの大好きなロボットβに、たくさんの本をプレゼントしました。
いつかわたしは、おじい様にロボットβと兄妹にして下さいとおねがいします。

あの広いバラのお庭はわたしはいらないから。
____________________
今回は、物語のつもりです。

+Sparkle+

2004年12月23日 物語
きらり、と私の薬指に指輪が光る。
お気に入りのローズクォーツ。
驚く友達の顔。
「その指輪、誰から?!」
「誰だと思う?」
満面の笑顔で。
「誰?」
躊躇う事なく、答えた。
「自分」

+黒い月+

2004年11月14日 物語
ある日、
わたしは突然真っ白な世界に居た。
何も無いから、怖い。
たった今、キョウをみつけて走り寄ろうと思ったとこだったのに。
ふと上を見上げたら、黒い月が浮かんでいた。
「キョウ…」
駄目元で呼んでみる。
すると黒い月にキョウの姿が浮かび上がった。
突然消えたわたしを捜している。
声は届いてこないけどわたしの名前を呼んでいるのがわかる。
「キョウ!」
もう一度呼ぶ。
だけどわたしの声はキョウに届かない。
必死でわたしを捜している。
顔色は真っ青だ。
満足カナ?
どこからともなくしゃがれた声が聞こえる。
…夢でよく聞く声だ。
昨日、『わたしが消えたらキョウはどうするだろう?』ト俺ニ訊イタダロウ?
…夢で言ったことだ。
答エガワカッテヨカッタナ。
「うん。だから元の場所に帰して」
ソンナコトハ頼マレテイナイ。
「そんな…!」
オ前ガ頼ンダノハ、質問ノ回答ダ。
…夢の話でしょう?
『これも夢だ。早く覚めてしまえ』
自分の手の甲を強くひねる。
「夢なんてもうみたくない!」

…気が付いたら、ベットの上だった。
消えた時と同じように、突然現れた眠ったままのわたしをキョウが家まで送り届けてくれたそうだ。
明日、なんてお礼をすればいいだろう…?

それからわたしは、『真っ黒な世界』の夢しかみなくなった。
 
 
 
『真っ黒な世界』の。
__________
今回は物語のつもりです。

+人間爆弾+

2004年8月17日 物語
「離れろ」
「嫌」
どうして、人間爆弾なんかになったのよ。
どうして、私を指定したの。
「離れろ」
「駄目」
「離れろ」
「また暴走したらどうしたらいいのよ」
貴方を止められるのは私だけ。
「もう大丈夫だって」
「わかった」
でも離れない。
「もう少し、貴方の傍に居させて」

貴方を守っていたい。
そして、もう一度二人で笑いあいたい。
どんな力も無くていいから。
______________________

今回は詩ではなく、物語のつもりです。

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